pathfinder

世界を暴く

都美にターナーが来る

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絵画などにはまるで興味ない粗野な俺であるが、ターナー(とグリューネヴァルト)だけは話が別で、蒐めた画集を折りに触れ眺め返したりしてるのである。中期以降の海洋画が特に好きだ。一般的な褒めどころとしては空気遠近法と色彩ってとこになるんだろうが、俺の目を惹くのはそれよりも、死を目前に控えた帆走戦列艦たちの最期の輝きである。

上に掲げた戦艦テレメールなどはもうたまらない。落日を背に、天空を切り裂くようにマストを屹立させ、金色に輝きながら進み行くはトラファルガーの武勲艦テレメール! しかしその騎行は自らの脚によるにあらず。老兵の白き帆布はもはや風を受けることはない。それに代え今際の際死地に向け彼を運ぶのは黒々と煤煙吐く産業時代の鉄仮面! その猛烈な前進は先に待つ海原の不吉な色合いにも気付かない。空が赤らんできた。死の足音が近い。しかし老兵が泣いているのは、自らの運命にではなく、目の前を歩く新時代の、奪われた魂に対してではないだろうか。

妄想が過ぎた。まあ、風立ちぬですよ。エンタメ物語としてはともかく象徴体系としては一級品な風立ちぬですが、俺に言わせればターナーにも同じ血が流れてるわけです。インダストリアやトルメキアの不穏なる確固さが、美しき自然を鮮やかに切り裂き、葬送するのだ。SAYONARA to 偉大なる古典期の死者たち。

で、今日知ったんですが、そのターナーが都美に来るそうです。今月8日から。こんなにうれしいことはない。というわけで、俺の人生はしばらく充実してしまうので、このブログは残念ながらますますつまらなくなるでしょう。仕方のないことです。

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