思考訓練の場としての英文解釈の3巻が出るらしい
出版社のHPをたまたま見て知った。
で、ついでにスレも覗いたんだが、そうしたらどうも著者が亡くなった風でもある。ご冥福をお祈りします。
『思考訓練の場としての英文解釈』というのはその名の通り英文解釈の本だ。(1)と(2)が出てる。俺がまじめにやったのは(1)だけなんだが、なかなか好著だったと記憶している。
英語学参の考え方は、色々あると思うが、一つにはパターン集って手がある。英文が取り得る型をひたすら列挙してくというわけ。いわゆる基本書の発想だ。
でも、そういう本って、ある程度分かってる人間が英文パターンの諸相を再確認するためにはいいんだろうけど、バカがそれなりになるためには使えない気がする。読んだだけだと勘所が分からないから。「これがパターン1です。例文これ、演習題これ。はいじゃあ次パターン2」って言われても、いや、英文の混沌からそのパターンを抉出する方法こそ知りたいんですが……って風。ヒントとか書いても無駄だよ。そういうの読めない、ないし、読んで分かった気にだけなって結局理解しないタイプの人間だから成績低迷してるわけで。
じゃあどうすればいいのか。これについては反復練習で分からせるしかないと俺は実感(自分、と、指導した高校生数人の)から思ってる。例文と演習題だけとかヌルいことは言ってられない。とにかく大量に読ませるのだ。
といっても無目的にたくさん読ませても効果は薄いし、何より目的の見えないことを延々やるってのは苦行でしかない。だから英文を大量に読むといっても、例えば常に「はい、主語どれ? 動詞どれ?」とか、目的をはっきりさせた問いを投げかけてやるのでなければならない。劣等生が英文読めるようになるためにはまずはこれかなというのが俺の考えだ。
たぶん『思考訓練の場としての英文解釈』の著者の考えでもあるんじゃないかとも思う。この本のいいとこはとにかく演習量主義なとこなのだ。第1章など、等位接続の研究のためだけに(これほどはっきりした目的意識があろうか!)短文20と長文(といっても英標クラスの、現代的には短文に類される1パラグラフ程度のものだが)が30いくつか配されてる。類書の10倍くらい? とにかくちょっとした数だ。そしてこれだけやればバカでも等位接続の勘所を理解するのではないか(というのはつまり主部とか述部とかを延々のり付けして拡張できるということを理解するということであって、「何が・誰が、どうした」の把握という英文解釈の最低線をまたぐということだ)。
でもそれならより優れた類書もありそうだ。その上であえて思考訓練を選ぶ理由はあるか? 俺はあると思う。というのもこの本、元がZ会的な通信添削(ORIONというところ)の補助テキストなだけあって、リアルな誤答例(と、それに対する罵倒)がてんこ盛りなのである。これが類書にはない美点になってる。誤答に不思議の誤答なく、ダメ思考過程の結果があるだけなわけだが、世にダメ思考過程のありさまを克明に追跡した本は意外に少ない。あってもさらっと触れる程度だ。それをこの本とその著者は、ねちっこくねちっこく罵倒しながら追及してく。これだけやられるとさすがにダメなパターンが見えてくる。で、実はそれこそが英語いまいちできないバカにこそ必要な処方であるわけだ。教師も「模試は必ず復習しろよー」って言うだろ。アレだよ。模試の復習とか、劣等生はしばしば部屋が散らかりすぎててできないわけだが、でもやらないわけにはいかないから、次善の策だがこういう本を使うべきところなはず。演習量重視姿勢に加え、この点でもやはりこの本は劣等生がステップアップしてく手助けになってくれる。
というわけで、煽り文句には偏差値90とかあるけど、この本、実は英語苦手な奴に対してこそ真に配慮したもんじゃないかと俺は考えてる。
……とここまで書いて現物を発掘したので開いてみたが、そんなことなかった笑。英語本当に苦手だとたぶんやっぱキツいです。偏差値60くらいはないとまず解説が読めないでしょう。というわけで、英語はそこそこ分かるようになってきたけど本質的にバカ、っていう、微妙なターゲットに向けたこれは学参かな、と思い直し中。って誰が読むんだそれ……。知識再整理って意味でならパターン集型の伊藤和夫や透視図の方が優秀だし。あ、でも英文法事項だけ知っていながらバカすぎて長文読めない層って意外とボリュームある気もするかな。
まあそんな感じ。というわけで3巻、出たら買います。
- 作者: 多田正行
- 出版社/メーカー: 育文社
- 発売日: 1973/01/20
- メディア: 単行本
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つーかTwitter botあるんだね。言い忘れてたけどこの本は読み物としても面白い。そういう意味でもオススメではある。まあ社会観がかなり時代がかってるっつーかマルクス主義的なので、その点は特に高校生は注意だけど*1。
@shikokunren: 悩み、呻吟し、愛し、裏切られ、憎み、そして絶望するという人生そのものを真摯に生きる態度に裏付けられてなければ、英文読解力もまた衰弱そのものでしかあり得ないのである。 #shikokunren
@shikokunren: 僅か4〜5個のthatをやたら沢山と感じるようなことでは、「1」と「沢山」という数詞しか所有せず、2以上の数の観念は持たぬ土人なみの頭脳しか君にはないのではないかと書いてやった。 #shikokunren
@shikokunren: だが諸君、チェ・ゲバラの栄光を羨ましがって許りはいられない。日々の英語学習の場に於いてす普段にチェ・ゲバラのなみのゲリラ理論による武装と抵抗の精神が要求されているのだと思えば、英語の学習もまんざら憂うつとばかりではなくなるというものではなかろうか。 #shikokunren
ゲバラっすか……。以下のとかは普通に有用な金言。
@shikokunren: his storyと言っても、「彼の書いた小説」なのか「彼のことを書いた物語」なのか、また単に「彼の持っている物語」のことなのかはこの表現だけでは決定し得ぬ。紛らわしいのに無理に「彼の物語」で済ませてしまって顧みようともしない訳文は躊躇なく厳しい減点の #shikokunren
@shikokunren: このようにして、語義を決定する際にして、引き合いに反対概念を想定してみて、それがその文脈にしっくり即応するかどうかを確かめてみるという技法はしばしば英文読解において有効な手段となるので是非実行してみてほしい。 #shikokunren
@shikokunren: Ax+yか、A(x+y)=Ax+Ay型かの判断材料としては、必ずしもその部分の語法上の判断だけでは足りるとは限らず、文脈に応じて全文の文意の上から慎重に決定していかなければならないことも多い。 #shikokunren