pathfinder

世界を暴く

エリジウムつまんなかった

(ネタバレを少々含む)

タイトルの通りです。楽しみにしてたけど肩すかしくらった。

これはスペースコロニーの金持ちに底辺な地球人が挑む、資本主義と民主主義を問い直す本格SF映画みたいに宣伝されてる。実際、導入もそんな感じ。22世紀、地球人口爆発、環境もヤバい、なので金持ちはさっさと宇宙脱出してハッピー健康生活、一方地球人は総下層総スラムでロボット警官にコキ使われながら今日も貧困と病苦にあえいでる。人道的介入すべき金満宇宙人どもは相変わらず衆愚政治と政争に夢中。世界は絶望で満ち満ちてる。そんな中、地球生まれの主人公(少年時代)は幼馴染の女の子に、「僕がお空へ連れてってあげるよ」って約束する。これがプロローグ。おお、臭みはあるけど面白そうだ。

でもいま言った設定が本編に全然絡んでこない。話の背景以上の意味を帯びることがついにないのだ。映画終わっても人口問題は何ら解決しない。唯一高度医療だけは地球人にも開放されるんだけど、過剰人口がほっとかれてる以上、早晩また同じような緊張が生じるのは誰の目にも明らか。じゃあそういう悲観的見通しを描いた警鐘映画かっていうとラストのテンションはそんな感じでもない。単純に、「わーいお薬だーやったー!」みたいな感じ。うーん。マクロ状況についての何かまじめな(開発論とかそういう系の話を踏まえた)洞察を示した話では少なくともないと言っていい。

いや、一応メシアニズム的モチーフでマクロ状況への接続がないこともない。つまり、驕傲せるローマと象牙の塔に籠った律法学者とが民草の悲嘆を捨て置く中、突如現れた救世主が自らの命と引き換えに神の国の万人への開放を約束するという紋切型がこの映画にも搭載されてる。というか全体をまとめ上げるのがこの構図だ。なんだ、日本人の俺らにはいまいちピンとこないけど、ちゃんと世界設定に意味あるんじゃん。

と思うじゃん? 残念ながらそういうノリなのは最初と最後の五分だけ。本編の大半を占めるのは、いま言った構図にあんま関係しない追っかけっこです(つーか本当この映画の主人公逃げてばっかだな……)。そういう意味で、繰り返すけど、設定が本編に全然噛んでない映画だ。

これはたぶん悪役の設定を失敗したのだと思う。パンピー主人公が腐敗した体制に対する反逆者として覚醒するに当たって、主に対峙する敵は、公共心忘れたハゲタカ資本家、と思いきや腐敗した議会からインペリウムを簒奪しようとする軍人皇帝*1、と思いきや、なんと最終的には軍人皇帝配下の一傭兵隊長である。しょぼい……。

地位がしょぼいだけならまだよかった。この傭兵隊長は人間としてもなんかみみっちい。一応スペースコロニーを乗っ取ってやるぜ! みたいなこと言うのだが、その動機というのが単なる加虐性欲なのだ。資本家も軍人皇帝も差し置いて暴走する、嗜虐嗜好な傭兵隊長からあちこち逃げ回るというのがこの映画のクライマックスを成すのである。要するにキチガイ怖いから逃げるって話である。アクションはそこそこ派手だが、盛り上がらないことこの上ない。資本主義も民主主義も関係ないじゃん。

その他、なんかギャングの親玉のヤバいヤツみたいな感じでできてたワルがスーパーハカー兼任させられた挙句終盤ではもっぱら三枚目つとめててキャラ崩壊著しいとか、親友犬死にとか、主人公の回心エピソードとクズ行為との順序が逆とか、超ハイテク熱源センサを家畜の群れに紛れて回避とか、スペースコロニー狭すぎとか、キチガイ傭兵隊長のサムライブレードだかニンジャソードだかがクソダサいとか、何より鍵アイテムの仕様がご都合主義的としか言いようがないほど非合理的とか、言いたいことは色々あるけど、まあそういうの突っ込む類の映画でもないと思うのでこの辺にしとく。

とはいえガンダムF91度がカナリ高かったのでその点は楽しめたりもした映画だった。みんなも観よう、F91

*1:こいつが、性格キツそうなヒスおばさんなんだが、「不法移民に対する射撃許可が背広組からまだ下りません!」みたいなこと言ってキョドってるオペ子に対して、苛立ちも隠さず「I AM AUTHORIZING YOU」って一語一語区切って吐き捨てるとこはメッチャカッコよかった。この映画、セリフ回しの妙は各所にあって、他にも例えば、かつて永遠を誓い合ったにもかかわらず再会したらちゃっかり子連れになってるヒロインが主人公に対して「色々あったのよ……」みたいな釈明しようとして出てくるセリフが「My life is complicated...」。他人ごと感というか投げやり感が素晴らしい(まあ、向こうではそこそこ使われる慣用表現っぽいが)。またまた、さらに別の場面になるが、予告編でも使われてるロボ警官とのやり取りなど、マット・デイモンの名演含めこれまたなかなか気が効いてると思う。確認して、いいじゃんって感じなら観てみるとひょっとしたら幸せになれる、かもしれない。