pathfinder

世界を暴く

叛逆の物語ファーストインプレッション

(11月3日追記:続きを書きました→まどかマギカ、魂に対する態度 - pathfinder。考えを改めたところがあるので、併せて読んでもらえるとうれしいです)

劇場版魔法少女まどかマギカ、叛逆の物語を観てきた。非常に面白く観た。と同時にひどく混乱させられていて、考えをまとめるためにこのエントリを書いている。そのためいくらかネタバレを含む。

まず話の確認。結論から言えば、「ほむら以外の人々にとってはそれなり望ましい改変世界(まどかが概念と化した魔獣世界)と、暁美ほむらの感情(まどかには人間のままのまどかであってほしい)とにどう折り合いをつけるのか」ということが問われた話だった。これ以外の要素についてはTV版本編でわりときれいにオチがついてたので、新編作った結果がこれというのは非常に納得感がある。

ただ疑問なのは「暁美ほむらの感情ってそんな大事なものか?」って点だ。あるいは「ほむらの感情にノれない観客にとってはこの映画つまんないってことになっちゃうのか?」と言ってもいい。

これはある意味でそうかもしれない。新編に関する感想を探してみると、だいたいほむらよかったと書いてある。これは確かに暁美ほむらの映画です。でもこの新劇、ほむらに共感できなくてもなお楽しく観れるはずだ。この映画は「ほむら以外の人々にとってそれなりに望ましき世界vsほむらの愛」という対立を通して、もっと普遍的な思想を提出してもいると思うからである。

すなわち、この叛逆の物語では、社会選択・世界選択の際の倫理ということが問題になってたと言いたい。ほむらが提起する問題は次のようにも翻訳できるからだ:ただ一人を除いて全員に是認されるような世界改変は正当化し得るか?

この問いに対し、正当化し得る、と答えるのでなければTV本編の結論には辿りつけない。ほむらの意を尊重するなら、まどかが神になるなど絶対に認められない。しかしその意を汲んでパレート最適の枠内に留まってたら魔法少女は魔女になるしかないのである。だからほむらには申し訳ないが、彼女の意見は圧殺して世界改変を行なってしまえというのがTV本編の結論だった。まあそれだと視聴者感情的に収まりが悪いから、まどかのリボン・まどかの記憶というオマケを付けて補償としたわけだ。そのくらいすれば、一匹の羊の犠牲の上に九十九匹の羊を護るような世界改変は正当化し得るというわけである。

だが視聴者は納得したがほむらは納得してなかった。それが今回の劇場版だ。そしてそこにおいてほむらが示していることは、九十九匹のために苦杯をなめた一匹の羊の側としては、自殺をしても構わないだろうか、あるいは武装化してテロっても構わないだろうかということである。驚くべきことにフィルムはこれらの選択肢に対し「ある意味で*1正当化の余地がある」くらいの応答を返しているように思われる。……ただしその行路はいずれも敗北を運命づけられているのだが。

このメッセージを、俺はもとより受け入れているが(自殺は正当化し得るしこの世には正当な殺人が存在する*2)、世論が受け入れるかということは大きな興味の対象だ。だが結論の当否はともかくとして、この主題が強力かつ普遍的なものであることは既に十分明らかと思う。叛逆の物語はキャラ愛を超えた普遍的な問いを設定することに成功している。

最後に一点。以上の点を踏まえると、振り返って重要となってくることがある。まどかがTV版ラストの世界改変に際して、ほむらの記憶だけは改変しなかったことである。これは非常に興味深い。というのは、そもそも世界選択の際にほむらの記憶(ないし選好)を変えてしまってれば、こんな面倒な事態は引き起こされなかったはずだからである。そしてまどかは実際、ほむら以外の人間に関しては記憶の書き換えを行っているのである*3

なぜまどかは、ほむらの記憶をそのままにしたか。答えはもう分かってるようなものだが(まどかはそういう子なのである)、しかし全然分かってないような気もする。

この映画については他にも*4書いておきたいことはたくさんあるが、今日のところは以上。

*1:どの意味でかというと、「愛ゆえになされた行為は正当化の余地がある」という構造になっているような気がする。これはちょっと神秘主義なんじゃないのとか冷やかしたくはなる。

*2:死刑を見よ。

*3:偉そうに書いたが、これは事実誤認を犯しているだろうか? というのは、ほむらがまどかのことを憶えてたのは、まどかがそう計らったからというより偶然ないしほむら自身の執念ゆえだったような気もしてきたからである。本編見直したい。

*4:例えば、細かいところで疑問の残る脚本(ミスリードになってないミスリードなどが邪魔)よりも、演出で観る映画という言い方さえできると思う。観ていて飽きるということがない。