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世界を暴く

反逆と叛逆

忠誠と反逆―転形期日本の精神史的位相 (ちくま学芸文庫)

忠誠と反逆―転形期日本の精神史的位相 (ちくま学芸文庫)

(……)謀反とは君主(この場合は天皇)に対して現実に危害を加え、または危害を加えようと謀ることを意味するのに対して、謀叛は外国もしくは「偽政権」に公然隠然と通謀・加担して之を利する行為を意味していた。(丸山眞男「忠誠と反逆」*1

俺はこれ逆に記憶してて、昨日書いた記事(まどかマギカ、魂に対する態度 - pathfinder)などはその記憶違いを元に組み立てた部分もあるのである。5分でこの記事書くつもりが確認してすっかりまいってしまった。

虚淵はあれで結構教養人で、かなり色々読んでいるから、以上の区別を念頭に置いてる可能性はわりとある。するってーと『叛逆の物語』というのは、アルティメットまどかという sovereign に対しての反逆ではなく円環の理という sovereignty に対しての叛逆の話だったのだと言っておくことができるわけだ。

困るのは俺である。俺は『叛逆の物語』を、円環の理を究極的には温存・存置した話だと読んでたからである。その補強材料探しに語釈論を探していたら、却って反対証拠にぶち当たってしまった。

結論ないですが、以上です。

おまけ。引用の範囲をややはみ出ますが……。

 ここで比較の便宜のために、ヨーロッパにおける反逆の法的カテゴリーの歴史的発展について最小限度の紹介をしておきたい。不敬と大逆を総称する lese majesty (lése-majesté) というカテゴリーははじめローマ法において、「国家(共同体)にたいする敵対、公的反逆行為」を意味する perduelio から発して、これがやがて crimen majestatis populi romani imminutae に発展した。この観念は最初、平民 plebs の基本権を侵害する行為を指したが、のちに、広くローマ人民の名誉と尊厳を傷つける行為を包含し、共和国が帝国となるに及んで、ついに当初の観念は crimen laesae majestatis として、国家と同一化された皇帝の人格と利益を侵害する罪を指すようになり、この伝統が近世の君主国に受けつがれて行った。

 ゲルマン法で Verrat というのは、共同体への忠誠 Treue の侵害であった。それはとくに共同体成員の通敵行為を意味し、裏切者は法の保護の外におかれた。封建法における忠誠の侵犯は、臣下の側だけでなく、主君の側にも適用され、主君の忠誠侵犯にたいしては臣下の側での抵抗の、権利というより義務が発生する。しかし王権の拡大とローマ法の浸透によって、やがて王を共同体の人格化とみなし、王と王族に危害を加える行為を Hochverrat (high treason) というカテゴリーに入れる考え方が、フランク王国をさきがけとして発展した。大陸における絶対主義の形成によって、 crimen laesae majestatis と Hochverrat の観念は癒着し、絶対君主は、しばしば財政上の理由から──反逆(不敬)者はその財産を没収されるので──この罪を濫用したともいわれている。けれども十八世紀合理主義哲学と「主権」観念の展開にともなって、君主に対する侵害行為と、国家の対外的安全に対する裏切行為との間の、範疇的な区分が意識されるようになり、やがて大逆 (Hochverrat) がまた、 (a) 君主・皇族の一身に対する侵害、 (b) 皇位継承順序その他基本的国家体制の非合法的手段による変革(ほぼわが国の「朝憲紊乱」の観念にあたる)との分化して行った。

 けれどもこうした範疇的な分化はそれぞれの国家の歴史的発展と密接に関係しているから、刑法上の罪の区別は西欧諸国家でもけっして同一ではない。イギリス法でもフランス法でもドイツ法の場合ほど、 Hochverrat と Landesverrat との区別は明確でない。とくに英法では、大逆罪と叛国罪は伝統的に high treason という観念に包含され、しかも侵害の客体はつねにキングの一身ということになっている(しかもイギリス古法では high treason にたいし、 petit treason というカテゴリーがあり、後者は夫妻、主僕といった特殊忠誠関係の侵害──具体的には謀殺──を意味した。これはローマ法系にない忠誠関係の社会的多元性を象徴している。もちろんやがて後世には、 petit treason は、一般的な殺人罪のなかに吸収された)。

 アメリカ法はとくに興味がある。そこで treason というのは、もっぱら叛を意味し、しかも周知のように、合衆国憲法第三条第三項は「合衆国に対する叛逆罪は、合衆国に対して戦争をひき起こすとか、または合衆国の敵に援助や便宜を与えてこれを支持する行為によってのみ成立する (shall consist only in...) 。何人も同一の明白な公然の犯行に関する二人の証言または公開の法廷での自白に基く以外は叛逆罪を宣告されることはない」(訳文は大沢章『世界の憲法』による)として、厳重に叛逆罪の適用を限定している。これは合衆国の建国の由来と密接に関連していることはいうまでもなかろう。(同*2

*1:『忠誠と反逆』、ちくま学芸文庫、1998[1992][原論文1960]、p.15

*2:前掲書 pp.17-19